傘に遮られた視界

翌日 私は久しぶりに登校した とくに変わったこともなく ただ軽蔑するような視線だけ 暴力がないだけまだマシだと 私は思う 昨日まではそこまで降っていなかった雨が 今日は勢いよく降っていた 昼休みは前と同じように 3Zのみんなと食べよう そう思って席を立つと 案の定榎本さんたちがきた 「よくもまあのうのうとこれたわね」 「ホント、マジありえないんだけどー」 「ここで話すのもなんだから、ちょっと移動するわよ」 ここでついていけば またロクなことにならないのも承知の上で 私は彼女らについていった 屋上へ続く階段をのぼり外にでる そこには 傘をさしている生徒の集団がいた 生憎私は傘を持っておらず 外に出るのを躊躇ったが 後ろにいた生徒に押され 雨に濡れるかたちになった 「あんたさぁ、いい加減いい子ぶるの止めろよ」 「どーせ3Zにも媚び売ったんでしょ」 「うっそ〜。マジで!」 「だって最近よく一緒にいるじゃん」 「そう言えばそうかも」 周囲の生徒たちが騒ぎ出す その声が徐々に驚きから罵声へとかわりはじめた 「目障りなの。消えて」 榎本さんの声で 一人の生徒が私の前に立ち 思いっきり殴った その衝撃で濡れた地面に倒れ伏す それを皮切りに 次々と足がふってきた 暫くの間 その行為は続いた 意識がぼんやりして もう、何も感じなかった 殴り、蹴られる痛みも 周りの罵声も 何も感じない 何も聞こえない 「ねぇねぇ。なんかコイツ死にそうじゃん」 「いいの。どうせ殺すつもりだったから」 「うちら警察に捕まんないよね?」 「そんなヘマはしないわ。自殺にみせかければ問題ないから」 突然 本当に突然 身体を持ち上げられた ズルズルと足を引きずりながら 屋上の端に立たされた あぁ 私、落とされるんだ と感じた 「聞こえてる?あんたは今から私達に殺されるの。 本当のことを知ってるのはここにいる私達だけ。 他の人はなーんにも知らず、あなたはこの世から消え去るのよ」 その言葉さえ もう 私の耳には届いていなかった 「恨まないでね。恨むなら自分自身を恨みなさい」 次の瞬間 先ほどまで地に足がついていたのだが 急に宙に浮いた感覚におそわれた いや、実際宙に浮き 落下していた 眼前に広がるのは 地面 強い衝撃がくるのを 私は待つだけ その落下の最中 意識がプツリと途切れた 最後に感じたのは 地面に叩きつけられる衝撃ではなく 誰かの温もりー…

- 15 - <<>>