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草木も眠る丑三つ時 敵襲があった。 どこの所属の者かは知らない。 夜は特にこちらは不利だ。 黒い服を着られていては、闇に溶けて見えなくなってしまう。 どのみちどんな格好をしていても見えないけれど。 「どうせなら白い服着てほしかったわ」 街中を駆け抜け人気も、建物も少ない場所、且つ開けた場所へ急ぐ。 できる限り周囲への被害を減らすためだ。 「春雨の奴らではなさそうね…」 情報屋自体人の恨みを買いやすい仕事だ。 いつかはこうなるとは思っていたがどうにも厄介そうな軍勢だ。 「女1人相手にしちゃ、多すぎるんじゃない?」 「まあ落ち着け。貴様に我らの元へつくのなら、我々専属の情報屋になるというのならこれ以上危害を加えるつもりは無い。」 「奇襲かけた奴が何言い出すかと思えば、そんなこと? 生憎、あんたらみたいな奴の下につくのなんてまっぴらごめんだわ。」 「残念だ」 声と同時に遠方から何かが雨のように降り注ぐ。 傘で防ぐことは容易だが次は片手と武器が使えなくなる。 この状態では直にやられる。 まずは遠距離攻撃をしてくる部隊の位置を把握しなければ 襲いかかってくる敵を躱しながら神経を集中させる。 遠くで銃弾が炸裂する音が聞こえた。 第2陣が来ると判断し身構えたが特に何も変わりはない。 それどころか上空からの攻撃が止んだ。 「何をしている!女といえど相手は夜兎だぞっ!」 誰かが喚き散らしながら命令していた声が 突然として聞こえなくなった。 「貴様何奴!!!!」 「討てええええええ!!!」 爆音が周囲に轟く 「貴様、まだ駒を持っていたか…!」 「さあ?私は何も知らないよ」 チャンスだ。 敵を蹴り倒し、頭をぶち抜く。 腹をかっさばく。 2度と起き上がれないように、的確に死へと追いやる。 後ろから音が聞こえた気がした。 振り向きながら傘を振りぬいたが手応えがない。 気のせいか…。 ほんの少し油断した。 背後に人の気配がした。 身の危険を感じる何か。 反射的に振り返った時には見えないはずの目の前に刃が迫っているのを見た。 だが目の前に迫った刃は、その後近づくことも無くずるずると崩れ落ちていった。 辺りの静けさが戻る。 どうやら撤退したか、全滅したらしい。 「危なかった…」 「ほんと危なかったよ。もうちょっと遅かったらが死んでたかもしれない」 視界の端で何かが動いた。 まだ動けるやつがいたのか、それとも…。 「よくそんな状態で戦おうとするね。俺だよ。」 「幻聴かしら?頭でもやられたのかな…いないはずの人の声がする…」 「幻聴なんかじゃないよ。ほら」 桃色の三つ編みが揺れるのを見た気がした。 身体が温もりに包まれる どうしてか体は動かない 「さ、実はもうほとんど見えてないんじゃない?」 「そんなことない。ちゃんと見えてるわ。だって…」 夜だから暗くて当たり前だ だから見えないだけなのだ そう、絶対に。 「じゃあ、俺が今どんな顔してるかわかる?」 「それは…」 「わからない?こんなに近くにいるのに?」 きっと神威は目の前にいる それなのにどんなに目を凝らしてもわからなかった。 「ほら、やっぱり見えてない。だから危ないって言ったんだよ」 あれはいつだったか。 覚えてる?約束したよね? 「を護るって」 「…それは戦場で私の背ががら空きだからって理由じゃなかったっけねえ」 そっと身体を離す。 「残念だけど、もうその約束、守る必要なんてないんだよ。私は戦場ではもう生きていけないんだから。 だからもうここに来る必要はないよ。」 今度こそちゃんとさよならしなければならない。 自分はもう退団した身。裏切り者だ。 神威がいる方に背を向け、歩き出す。 家に帰らなきゃ、きっと近所のおばさんも心配しているだろう。 「まったく、はバカだね。どうしようもないくらい。 俺がいつの背中護るなんて言ったかな。 何より、帰る場所はそっちじゃないよ。自分の居場所もわからなくなったの?」 腕をぐいと引っ張られ、どんどん進んで行く。 「ちょっと、そっちは家の方角じゃない気がするんだけど」 「だから、帰る場所はこっちだよ。」 Invisible (目には見えなくても) (傍にいてくれる人がすぐそこにいる) 「あと、俺はを護るためにきたんだよ。絶対死なせたりしないからね」

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