鳳仙が団長を辞した時だ。 次は誰になるのか。 師団内で噂されてたのは俺とだった。 どちらが団長になるのか。 ハンデがあるとはいえの強さは誰もが認めていた。 何より今まで団長の補佐をそれとなくしていたから 候補に上がるのも必然と言える。 しかし団長の役回りは俺にまわってきた。 どこかで、は団長という役職を辞退したのではないのか? という憶測が師団内で飛んでいた。 そんな憶測よりも、最近の様子がおかしいように思えた。 とにもかくにも団長になった以上今までと同じというわけにもいかない。 「それで、団長勤めはよくわからないから私に暫くつけって?」 「うん。だってずっとそれっぽいことしてたでしょ?知ってると思って」 「前団長が引き継ぎとかしてるものだと思うし、何より副団長がいるんだからそっちに聞けばいいじゃない」 そこをなんとかと食い下がると 渋々ではあったが引き受けてくれた。 これでしばらくの傍にいれそうだ。 「そういえば。前に比べてどれくらい見えなくなった?」 少しづつ視力を奪われる病だったはずだ。 もしかしたらそこに何か原因があるのかもしれない。 「…どれくらいって言われてもねぇ…」 前は辛うじて顔が見えるか見えないかぐらいだったけど、 今は完全に顔のパーツすらわからない。 と言った。 「ふーん」 「聞いておいてその反応はないと思うけど」 「ごめんごめん。でもには俺がついてるから」 その視力のせいで何か悩むこと…。 考えなくても、の方から団長への頼みとして 原因を知ることになる。 「団長、一つだけ頼みたいことがあるんです。」 「どうしたの?急に改まって。」 団長が団長として自立したら、私はここを、第七師団を辞めたいと思っています。 その許可を頂けませんか。 はそう言った。 春雨を辞める。 この、第七師団を辞める。 「どうせいつかは使い物にならなくる。 そうしたらきっと、同じような道を進むことになると思う。 なら、いっそ自分の意思でちゃんとけじめをつけたいんです。」 それなら黙っていなくなっても同じなのに それでも言いに来るのはらしいところではある。 辞めるなんてことは実際できるわけではない。 裏切り者として永遠に追われることになるだけだ。 何もいいことなんてありはしないのに…。 一通りの仕事を覚えるまでと言っていたがもういっそ出来ないフリでもして引き留めてしまおうか とかも考えた。 でも一発でばれてしまうだろうと思った。 はもう覚悟を決めている以上 引き止めることは諦め、割り切っていくしかない。 「今すぐって理由でもないしね。」 「だからといって手を抜いて仕事をするわけではありませんから。」 それからというもの、引き継ぎやらの仕事は着々と進んだ。 「はぁ…」 「最近ため息ばかりだな。のいないとこで」 「そりゃつきたくもなるよ」 だっていなくなっちゃうし…。 「んなんだと団員に示しがつかつかねえぞ。今、他の団員たちに色々やらせてる。 周りの事でな。」 易々と逃げ出すことはさせないと、そう言いたいのか。 「むしろ逆だ。あのまま逃げたんじゃすぐ見つかるだろう。」 脱出するための艇、食糧やら道中まで支援する。 「そう簡単に死なせるわけねぇだろ」 そうして着々と準備は進み ついに出航の日 「、ほんとに1人で大丈夫?」 「あんまり心配されても困る。それに私は団長がちゃんとやっていけるかの方が心配だもの。」 そう言っては笑った 「…次会う時は私を裏切り者として殺しに来る時かな。 敵さんの顔、ちゃんと覚えておかなきゃね。よく見せてくれる?」 前はそんなに顔を寄せなくても見えていただろうに 今はぐっと顔を寄せないとわからなくなったらしい。 見えなくなるのも時間の問題か。 「いつの間にそんなに大人になったんだろうね。私の記憶にある神威と全然違うや」 「そりゃガキの頃と同じなわけないよ。お互いにね。」 「それもそうね。副団長も、よく顔を見せてくれる?」 が阿武兎のほうに手を伸ばした時、反射的に突き飛ばしていた。 壁が壊れる音が周囲に響く。 「何してるの?」 「阿伏兎は別にいいじゃん。駄目だよ。オッサンが移る」 「オッサンは移るもんじゃねぇよ、ったく…」 準備をしていた団員が近づいてくる 「準備完了しました、ご確認を」 確認を終えるといよいよ別れの時 は特に何も言わなかった。 さよならの一言も。 を乗せた船は飛び立ち 部屋は静まり返った。 「よかったのか?団長」 「が決めたことだからね。止めたって無駄だろうから」 阿伏兎ははぁ、とため息をついた。 「の視力が悪くてよかったな。そんな情けない面ぁしてたら潔く飛べなかったろうさ」 「うるさいなぁ、阿伏兎。お前にそんなこと言われる筋合いはないよ」 へいへい、じゃあ俺は先に戻るぜ そう言って部屋には俺だけが残された。 心にぽっかりと穴があいたような そんな虚しさが身体中に沁みた。 こんな虚しさはいつ以来だろう。

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