鬼さんこちら

キーンコーンカーンコーン 授業の終わりのチャイムが鳴る。 今日はこれで学校は終わりだ。 「そうだ、神楽ちゃん。なんで今日はずっと豆持ってるの?」 「今日は節分ネ!節分と言えば豆まき! 鬼に投げるためにもってるアルよ!」 そう、今日1日何かある度に鬼は外ー! と言って豆を投げては先生に叱られているのだ。 「でもそれはおうちでやるものじゃ?」 「学校も悪いの一杯アルよ。おうちだけじゃ不十分アル。 私の行くトコに鬼は居させないヨ!」 鞄の中にもまだ豆はあるぞと見せてくれる神楽ちゃん。 「そういえば神楽ちゃん、節分って豆まき以外にもあるのは知ってるよね?」 「恵方巻ネ!どっか見ながら黙々と食べるやつデショ。それくらい知ってるアル!」 「まあそれもあるかな。それにどっかじゃなくて恵方ね。今年は南南東だっけ…。 じゃなくてね、豆はまくだけじゃなくて年の数だけ食べるっていう習わしがあるんだよ。」 それに、本来は炒った豆を使わないといけないんだけど。 「そんなのがあったとは知らなかったネ…。毎年いっぱい食べてしまってるヨ…。」 「まあまあ、そんなに落ち込まなくてもあくまでげん担ぎみたいなものだし」 「言い出しておいてそれはないネ!今年はちゃんと年の数だけ食べることにするヨ」 少し悪いことをしてしまったかなと思ったけれど 神楽ちゃんはすぐに何もなかったかのように話す なんでも駅前に新しいお菓子屋さんができたとか。 どうしても行きたいらしい。 「じゃあ帰りに寄って帰ろうか」 「とデート!帰ってあいつに自慢してやるアル!」 意気揚々と帰る支度を見て、ふと思った。 そういえば今日はまだ神威の姿を見ていない。 いつも終業のチャイムが終わった途端教室に飛び込んでくるのに。 「あれ?、全然準備進んでないネ。何かあったアルか?」 「あ、ごめんごめん。もうちょっと待って!」 ついつい手が止まってしまっていたらしい。 急いで鞄の中に授業道具を仕舞っていく。 「お待たせ!行こうか」 鞄を肩にかけ、教室を出ようと扉を開けようと手をかけた時だった。 ほぼ同時に勢いよく開いた。 手は虚しくも空中で静止する形になる。 「!」 勢いよく開けたのは神威だった。 珍しく息を切らせている 「神威!どうしたの?そんなに急いで」 そういうと少しむっとした顔をしたがすぐにいつもの笑顔に戻った 「そりゃ迎えにきたに決まってるでしょ。 駅前に新しいお菓子屋さんできてたからいこ!」 「今日は私が一緒に行くって決まってるネ!後から来たやつは帰るヨロシ」 目線を逸らさず兄妹は火花を散らしているが 神楽ちゃんの手は鞄のほうに伸びている。 あ、豆をまく気だな…。 「じゃ、そういうことだから神楽は一人で家に帰ってはげと一緒に節分でもしてな」 神威に手を引かれ廊下に飛び出すのと 神楽ちゃんが豆をまくタイミングはほぼ同じだった。 「神楽ちゃん痛い!私にも当たってるからそれ!」 「待つアル!神威!」 「待てって言われて待つ馬鹿はお前くらいだよ」 と一緒に (私も鬼になっちゃった) (鬼でよかったって思ったよ) (まあ偶には2人きりも悪くないね) (顔を合わせて小さく笑った)

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